『シャイニング』の血の洪水の意味は?双子の正体やジャックはなぜ狂ったのか?最後の写真や犬男など徹底考察解説
1980年12月13日、日本公開の映画『シャイニング』。
映画監督の巨匠、スタンリー・キューブリックによる傑作の1つとなっています。
キューブリックは映画『時計仕掛けのオレンジ』『2001年宇宙の旅』『バリー・リンドン』など多数の名作を世に出していますが、この映画は彼にとっては異色のホラーものです。
原作はアメリカの超有名作家のスティーヴン・キングの代表作の1つです。スティーヴン・キングは『キャリー』、『IT』などのホラーものから『スタンド・バイ・ミー』のような異色ものも有名です。
管理人
映画だけでは難解な部分もあり、より『シャイニング』を楽しめる考察解説をしてみました。
- 血の洪水の意味は?原作にはない映画オリジナルの演出!
- 双子の正体はジャックの前任の管理人デルバート・グレイディの娘たち
- 犬男とタキシード紳士の正体とは?
- 最後の写真はジャックが輪廻転生していることを意味している
- ジャックはなぜ狂ってしまったのか?
- 実話なの?237号室やロケ地ついて解説
- 鏡について
- カーペットの柄模様の意味
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目次
シャイニング|血の洪水の意味は?原作にはない映画オリジナルの演出!
「斧で叩き割った扉の隙間から顔を覗かせるジャック」、「双子の少女の霊」と並び、「シャイニング」を象徴するシーンが「血の洪水」です。
このシーンもまた数多くの作品でパロディやオマージュとして消費されてきました。
例えば近年ですと2018年公開の『レディ・プレイヤー1』で思わず笑ってしまうような血の洪水のシーンがありました。同作は『シャイニング』の様々なシーンの他にもあらゆる作品のパロディに満ちており、いずれにも元ネタに対しての愛情が感じられます。
「血の洪水」は原作にはない映画だけのシーンではありますが、これぞ映画というジャンルの特性を理解した、キューブリック監督の映像センスが炸裂した本作屈指の名シーンです。
そのインパクトは一度見たら決して忘れることはないでしょう。
管理人
この血の洪水のシーンは、劇中で4回あります。
1回目は管理人としてジャックの採用が決定した直後のシーンで、トニーと対話したダニーが彼からホテル行きを反対され、不吉な血の洪水のヴィジョンを見せられます。
2回目は、237号室の女に首を絞められたダニーの証言に基づき部屋を調べたジャックが、ウェンディーに何事もなかったと嘘をつく部分です。
両親が言い争うなか、すっかりホテルの悪念に当てられたダニーは自我が戻らぬまま、能力によって「REDRUM」の文字や血の洪水を見ることになります。
3回目は、ジャックの書いた原稿を見たウェンディーが、完全に彼の正気が失われていることを確信し、護身用にバットを持ちながらも、怯え後ずさりしながら会話するくだりです。
ダニーにはテレパシーのようにジャックの声が聞こえ(ただし醜く歪んで)、もはやその視界は血の洪水によって全てが赤色に覆われています。
4回目の血の洪水を見ることになるのはダニーではなくウェンディーです。
斧を持って襲い来るジャックから逃げつつダニーを探すウェンディーがエレベーターのところまで来ると、同様に血の洪水が押し寄せるのです。
このように見てみると、血の洪水はダニーが持つ能力=シャイニングによって感知することが出来る、禍々しいオーバールックホテルの心象風景であることが分かります。
同時にそれはトニー(=未来のダニー)からの警告でもありました。
終盤でウェンディーまでもがそのヴィジョンを見ることができるのは、ホテルの力がそれだけ強まっているということでしょう。
あるいは、オーバールックホテルがインディアンの埋葬地の上に建てられていることから、入植者によって流されたインディアンの犠牲者たちの血を意味しているという解釈もできます。
さらには、生命の象徴とも言える血液が大量に流れ出ることで、明確に「死」を想起させるという目的もあるかもしれません.
なお、この血の洪水のシーンは現代ならばCGで撮られることになったでしょうが、当然のことながら、当時はそのような技術はありませんでした。
管理人
本物の血に似せる努力を重ねて作成した赤い液体を何百ガロンも用意し、実際にエレベーター内に流しこんで撮影したのです。
3テイクで成功はしたものの、1回ごとにエレベーターや壁の清掃、大量の血糊の作成といった気の遠くなるような作業をおこなったわけで、このシーンの撮影には1年が費やされたそうです。
#観たら絶対に忘れない映画のカット
【シャイニング】
血の洪水エレベーター。 pic.twitter.com/AdYKRmbsNi— 風と共に去り犬 (@pacino_3) June 23, 2022
シャイニング|双子の正体はジャックの前任の管理人デルバート・グレイディの娘たち
ホテルの廊下を三輪車で走るダニーの前に突然現れる双子。
一緒に遊ぶよう誘われますが、ダニーには彼女らが血塗れで横たわるビジョンが映り…。
心底ゾッとするこのシーンは、今や映画『シャイニング』を観たことのない人にも認知されており、双子の少女の霊はもはや「ホラー映画」そのもののアイコンになろうとしています。
しかし、実は彼女たちの登場シーンも映画オリジナルの要素でした。
管理人
この双子の霊の正体は、ジャックの前任の管理人デルバート・グレイディの娘たちです。
グレイディはジャック同様、冬季の管理人を務め精神に異常を来たし、妻と娘たちを斧で惨殺し、自らは猟銃で頭を撃ち抜き自殺しました。
原作及びTVドラマ版では支配人のアルマンからその経緯を聞くだけで、双子の霊は登場しません。
それに設定では歳の近い姉妹であり、双子でもないのです。
ところが、キューブリック監督が追加した双子の姉妹の霊は結果的に絶大なインパクトと恐怖をもたらしました。
特に双子であることが違和感や恐怖を倍加させたと言えるでしょう。
管理人
キューブリック監督の好む「一点透視図法」と「左右対称」の構図に、双子は完璧にマッチしていたのです。
そして、この双子の霊についてはモチーフとなった写真が存在します。
それが写真家ダイアン・アーバスの代表的作品「一卵性双生児」です。
ダイアンは身体障害者や倒錯者等のアウトサイダーな人々を好んで被写体とし、虚飾を排した冷徹なまでの写真表現が特徴でした。
キューブリック監督は若い頃「LOOK」誌でカメラマンをしており、当時の先輩であるダイアンに師事していたこともあったそうです。
ダイアンの「一卵性双生児」では「アイデンティティ」や「異常の中の正常性」及び「正常の中の異常性」が表現されており、非常に親密で同一に見える双子であっても、表情から各々の個性がしっかりと見てとれました。
同様に双子の霊でも、一人はわずかに微笑み、もう一人は真顔の表情で、ダイアンの作品と極めて類似しています。
キューブリック監督はダイアンから少なからぬ影響を受け、彼女にオマージュを捧げたのでしょう。
管理人
また、余談ですが映画版には前管理人のグレイディについての謎があります。
ジャックが服にドリンクをこぼされ、会話することになった人物はデルバート・グレイディと名乗りましたが、冒頭でアルマンが話した前管理人はチャールズ・グレイディという名前なのです。
原作でも前管理人はデルバート・グレイディのみです。
まさか完璧主義者のキューブリック監督のことですから、キャストのセリフミスとは考えられません。
そうなると、つまりグレイディは2人存在し、昨冬の管理人がチャールズで、デルバートは過去のいずれかの時期に管理人を務めたことになります。
ジャックもまた、かつて管理人をしていたことを指摘されており、エンディングでも示唆されているように、グレイディもジャックも輪廻転生を繰り返していることが推測できるのです。
この輪廻についての描写は映画版にしかありません。
ジャックがアルマンの話したチャールズ・グレイディを知らなかったのに、デルバート・グレイディのことは新聞で見て知っていたのは、ホテルのデジャヴ同様に前世の記憶が蘇ったからではないでしょうか?
そうであれば、もしかしたら双子の少女の霊も、デルバート・グレイディではなくチャールズ・グレイディの娘なのかもしれません。
管理人
シャイニング怖すぎた。なにがREDRUMや。怖すぎ怖すぎ怖すぎ( ゚д゚)でも流石キューブリックやな奇才すぎてキチガイすぎて…(笑)しかしこのシーン何度見ても見覚えがあって怖い pic.twitter.com/xQ157LL4Jt
— 次元大介 (@tout_le) May 28, 2013
シャイニング|犬男とタキシード紳士の正体とは?
映画『シャイニング』における最大の謎と言えるのが、犬のような被り物をした男とタキシードの紳士の正体ではないでしょうか?
これは映画の終盤、完全に狂ってしまったジャックから守るために先に逃がしたダニーをウェンディーが探しているシークエンスで登場します。
犬男は全身毛に覆われた着ぐるみを着用していますが、なぜか尻の部分だけが大きく露出しています。
さらに、犬男はタキシードの紳士の下半身に覆いかぶさり、何やら怪しい動きをしているのです。
これは明らかに男性同士で性的な行為をしているということでしょう。
管理人
不条理で不可解なシーンの多い映画『シャイニング』でも、このシーンは特に際立っています。
では、2人はいったい何者なのでしょう?
まず、原作小説およびTVドラマ版にはこのシーンはありません。
ただし、それに近い描写があります。
物語の後半、ジャックが飲酒していることを察知したダニーが止めに行こうとすると、廊下から犬男が現れ、ダニーを威嚇し通せんぼするのです。
他にも、かつての支配人ホレス・ダーウェント(第二次世界大戦後のオーバールックホテルを立て直した敏腕経営者で、原作ではダニーの力を取り込もうと、あらゆる手でジャックを籠絡してきます)が、自身の忠犬的存在である部下のロジャーに対して犬の恰好や真似をさせてからかう描写があります。
そしてホレスはバイセクシャルという設定でもあるのです。このことから、犬男と紳士の正体は、映画では語られることのなかったロジャーとホレスと考えられます。
ちなみにTVドラマ版では、被り物は犬ではなく狼でした。ダニーを威嚇したのも、服装からホレスであることが分かります。
管理人
また、映画で犬男に遭遇するのがダニーではなくウェンディーに変更された点については、ダニーを演じた子役のダニー・ロイドに怖い思いをさせたくないというキューブリック監督の配慮によるものです。
ただ、そうなると大人であるウェンディーが犬男に遭遇したところであまり恐怖を感じることはないでしょう。
そのため、奇妙な恰好をした者が男同士で性的な行為に耽っている(当時は同性愛に対して世の中は非寛容でした)、という要素を加え、ゾッとさせようとしたと考えられるのです。
そして、実はこの2人の正体については2019年、ホレス役を演じたブライアン・V・タウンズへのインタビューで答えが出ています。
それによると犬男と紳士は、やはりロジャーとホレスということで間違いありませんでした。しかし、このインタビューで注目すべき点は、犬男として認識されてきたあの人物が実は「熊男」であった点です。
たしかにあの着ぐるみは茶色い毛に丸い耳、それに顔は黄色でした。
熊と言われれば、その方がしっくりきます。
もしかしたら、熊男役のエディー・オディアの体型から、犬より熊の方がよいと判断されたのかもしれません。
いずれにせよ、今後は彼のことを「犬男」ではなく「熊男」と呼ばなければなりません。
管理人
#出番少ないけど印象に残っているキャラ
「シャイニング」の犬男 pic.twitter.com/Ivwo2LhukM— モノトーン (@Monotone1941) October 13, 2021
シャイニング|最後の写真はジャックが輪廻転生していることを意味している
映画の最後、ゴールドルーム(舞踏会場)の壁にかかった写真に画面がズームアップしていくと、そこにはジャックとそっくりの男が万座の舞踏会場の中央で微笑んでいました。
その写真の日付は1921年7月4日となっています。
ジャックが凍死したことで、その魂がホテルに囚われたとも解釈できそうなのですが、監督の意図はジャックの輪廻転生にあるようです。
この点もやはり映画だけの要素であり、確かに劇中には輪廻を仄めかす描写が幾つかありました。
例えば、ジャックは「初めて面接に来た時、昔来たことがあるような気がした」、「どこに何があるかも覚えている気がした」、とデジャヴを超えた既視感があることを語っています。
バーテンダーのロイドとも、なぜか「ハイ、ロイド」と初対面にも関わらず名前を呼び、ロイドも「トランス様」と応え、ジャックと面識がある様子でした。
同様にデルバート・グレイディとの会話でも、グレイディはずっと昔からジャックが管理人であったと、自分もまたずっと昔からここにいると断言しているのです。
つまり、何の因果か2人とも生まれ変わってはオーバールックホテルの管理人を務め、その都度家族を惨殺しているのでしょう。
写真の男はジャックの前世というわけです。
管理人
また、写真の日付が1921年7月4日であることから、ジャックがゴールドルームで見たり話したりした人物は当時の人々だと思われます。
音楽の面でも、ゴールドルームのシーンで流れる曲は「Masquerade」(1932年)、「It’s ALL Forgotten Now」(1934年)、「Home」(1932年)、そして本作のエンディング曲でもある「Midnight, the Stars and You」(1932年)と、いずれも1930年代前半の曲であり、さすがに1921年そのままの音楽ではないものの、その時代らしさを醸すことに成功しています。
そして7月4日というのは言わずもがな、アメリカ独立記念日です。
この日付が意味するものはインディアンへの皮肉でしょう。
本作では、度々インディアンに関係する話題や物を出し、アメリカ人の原罪とも言うべき彼らへの迫害の歴史を想起させ、根源的な恐怖を煽っています。(例えば、ホテルがインディアンの墓の上に建っていることや、装飾にインディアンの伝統的なデザインを使っていること等)
独立記念日もインディアンにとっては祝福どころか、むしろ忌むべき日でしかありません。
独立宣言は天賦人権説を謳った大層立派なものですが、その文言の「人間」にはそもそも黒人もインディアンも含まれていないのですから。
もともと彼らは独立した存在であったうえに、その大量の屍の上に築かれたヨーロッパの白人入植者の「独立」など、彼らがどのような気持ちで受けとめるのか、想像するに余りあります。
管理人
地味ながら、こういった点の積み重ねがアメリカ人の「いつか自分たちが罪の報いを受けるのではないか」という恐怖を刺激するのです。
シャイニングのラスト
ジャックがどうしてホテルの管理人としてループしているのかは、
もしかしたら、グレーディーは前世のジャックで妻と娘の命を奪った因果で輪廻転成を繰り返しているのかもしれません。 pic.twitter.com/q9UmFptbzl— 映画好き男子🎬シネマヒッツ (@cinema_hitsTV) June 29, 2020
シャイニング|ジャックはなぜ狂ってしまったのか?
映画「シャイニング」は原作小説から大きく変更を加えたことで有名です。
そのあまりの改変ぶりに原作者のスティーブン・キングは激怒し、映画版の『シャイニング』について長年の間、批判してきました。
その変更点は無数にあるのですが、もっとも大きなものとして、ジャックが狂っていく過程が挙げられます。
管理人
原作及びTVドラマ版では、ジャックの根底には家族愛がありながら、ホテルの悪意によって段々とジャックは正気を失っていきます。
ホテル(と亡霊たち)の狙いは明確であり、ダニーの持つ能力(=シャイニング)を奪い、自分たちの邪悪な力をより強大にするために、ジャックを狂わせ妻子に手をかけるよう仕向けたのです。
ジャックは、家族(特にダニー)への愛とホテルの邪悪な力との間で最後の最後まで葛藤していました。
そして死後もダニーの成長を温かく見守っていたのです。
ところが映画版のジャックには、家族団らんといったシーンもなく、ウェンディーにもトニーにもさして愛情を持っていないように感じます。
しかもホテルに住み始めてまだ間もない時点で、すでにジャックの様子はおかしかったのです。
管理人
例えば、一ヶ月後の初めて雪の降った木曜日、ジャックはなぜか放心状態におちいっていました。
前日には仕事中に話しかけるウェンディーを怒鳴りつけていたし、もうこの時点で不穏な空気が充満しています。
さらには4日後の月曜日、トニーが部屋に入ったとき、ジャックは同様にボーッと虚空を見つめていました。
その様子はダニーが病気を疑うほどでした。
ジャックはダニーに「できればいつまでもここにいてほしい。ずっと…永遠に…」と語るのですが、この言い回しは土曜日に遭遇した双子の少女の霊と同じセリフです。(ever and ever の部分)
ということは、この時点でジャックはホテルの邪悪な力に取り込まれ、すでに正気ではなかったのです。(ここは唯一、ジャックがダニーを抱き寄せるシーンだというのに、ジャックは狂い始めており、BGMも不安を感じさせるものです。要するに映画では家族への愛情を描く気はないということです。)
決定的なのは、ジャックのタイプした原稿用紙です。
管理人
後半にウェンディーが、同じ文章で埋め尽くされた膨大な量のジャックの原稿を見て悲鳴をあげますが、これは執筆開始直後の段階からジャックが狂っていたことを示すものです。
なお、この点にはジャックを演じたジャック・ニコルソンの超個性派俳優としての特性も少なからず影響していると言えるでしょう。
圧倒的な存在感を放つ彼の容貌と演技では、平凡な父親という役柄に収まるわけもなく、どこか危険な人物という印象を最初から与えてしまうからです。
もっとも、キューブリック監督はそれも含めてニコルソンを起用しました。
さらに監督は映画において敢えて、ジャックがホテルの力とは関係なくストレスによって狂ってしまったとの見方もできるようにしています。
ジャックは、原作者スティーブン・キングの一番苦しかった頃の体験が反映されています。
妻も子もいながら、いい歳をして物書きとしてまったく売れず、酒に溺れる貧乏生活。
こんな後のない崖っぷちの状況で、妻には仕事の邪魔をされ、息子は架空の人物と話す等のおかしな言動をとるようになったら、精神に異常を来たしてもおかしくはないと感じてしまいます。
実はジャックの遭遇する怪現象はダニーと違い、彼の妄想によるものと解釈することができるのです。
管理人
例えば、237号室の女やバーテンダーのロイド、デルバート・グレイディと遭遇する場面には、常に鏡がありました。
もしかするとジャックは鏡に映る自らの邪悪な内面と対峙していただけなのかもしれません。
また、237号室の女がダニーの首を絞める直接的な描写はないので、これもジャックの犯行なのだが、ダニーが父をかばっているという可能性もあります。
とかく映画版のジャックは、正気でなくなってしまってからというもの、家族に危害を加えることに躊躇いがなく、むしろ嬉々としておこなっているふしが見受けられます。
では、なぜキューブリック監督は原作から大きく改変を加えたのでしょう?
管理人
それには監督の個人的な思想が関わっています。
それというのも、キューブリック監督は霊の存在も死後の世界も、神すらも信じていないからです。
ダニーやウェンディーが遭遇する怪現象は霊というよりも残留思念のようなもので、特殊な力によって過去のある一点が見えるに過ぎません。(ただし、ジャックが閉じ込められている食料庫の鍵を開けたのは、明確にグレイディの霊だと監督も認めています。)
ジャックに至っては全てが妄想の可能性すらあります。
タイトルである超自然的な力「シャイニング」も、本作ではあまり大事な要素ではありませんでした。
そして、これらの改変はある一点に向かって収束します。
それこそが「恐怖」です。
管理人
映像の魔術師キューブリックは、活字と映像の媒体の違いを誰よりも理解しているが故に、原作をそのまま忠実に映像化しても恐怖は得られないと判断しました。
原作の要素を極限まで削ぎ落とし、ソリッドな形に再構築することで、キューブリックは恐怖を追求したのです。
その結果、映画『シャイニング』はホラー映画の金字塔として不動の地位を確立しました。
また、英ロンドン王立大学の研究チームによると、映画の恐怖度を数値化したところ、最も数値が高かったのが映画『シャイニング』だということです。
管理人
実際にスティーブン・キング自らが監督したTVドラマ版とこの映画版を見比べれば分かるのですが、怖さもさることながら、映画版の圧倒的な完成度の高さ、映像センスの良さに驚かされます。
TVドラマ版も、父と子のドラマに思わず涙が出る良作なのですが、映画と比べてしまうと凡庸な作品に見えてしまうのです。
スティーブン・キングは映画『シャイニング』を「モーター(エンジン)のないキャデラック」と評価しました。
大きくて美しく、豪華な内装も楽しめるが、そもそも心臓部のエンジンがないから走れないという意味です。原作者にとっての心臓とは親子の愛情でした。
しかし、その走らないキャデラックはあまりに大きく美しく、車とは異なる存在(例えるなら美術品)に昇華してしまったのです。
エンジンなど不要と思わせるほどに。
シャイニング|実話なの?237号室やロケ地ついて解説
映画『シャイニング』はスティーブン・キングの原作小説を映画化したものであり、もちろん実話ではないのですが、作品にはキング自身の体験が多く反映されています。
高校教師兼売れない作家であったキングは、初の長編小説『キャリー』のヒットによってようやく小説家としてのスタートを切り、家族と共にコロラド州ボールダーに移り住みました。
1974年、キングは気分転換のため北部のエステスパークまでドライブに出かけ、ロッキー山脈の麓に佇むスタンレーホテル217号室に宿泊します。
その時、ホテルは冬季休業する直前であり、宿泊客もキング一家だけでした。
しかも、ただでさえ人気がなく閑散としたホテルは不気味なのに、そこは以前から霊が出るという噂で有名でした。
217号室についても、1911年の爆発事故以来、霊の目撃情報が相次いでいたのです。
管理人
そんな状況で宿泊したキングは案の定、3歳の息子が消防ホースに襲われ、迷路のような廊下を絶叫しながら逃げ惑うという悪夢を見ました。(原作及びTVドラマ版では、ダニーが消防ホースに襲われるシーンがあります)
その体験からキングはインスピレーションを受け、『シャイニング』の物語を書き上げたのです。したがって、オーバールックホテルのモデルとなったのはスタンレーホテルであり、いわくつきの部屋もキングの泊まった217号室というわけです。
ただ、原作およびTVドラマ版では217号室の設定ですが、映画については237号室になっています。
これは映画でオーバールックホテルとして撮影したオレゴン州のティンバーライン・ロッジが、映画によって217号室に悪影響が生じることを懸念し、実在しない237号室に変更するよう要請したためです。
それと対照的なのがスタンレーホテルで、同ホテルはその後TVドラマ版でオーバールックホテルとして撮影された後も、『シャイニング』発祥の地として、また幽霊の出るホテルとして宣伝し、人気を博しています。
実際、今現在も217号室は最も予約の取れない部屋となっているそうです。
管理人
ちなみに237号室の女の正体について、原作では何者なのか説明されています。
彼女はロレイン・マッシーという名前で、ニューヨークの大物弁護士の妻なのですが浮気癖があり、ホテルへは若い愛人と不倫旅行に訪れていました。
しかし、宿泊中に愛人に逃げられてしまい、ロレインは入浴中に自殺を図ったのです。
ロレインは『シャイニング』のアイコンとも言える霊の一人であり、その後も続編である『ドクター・スリープ』に登場しています。
シャイニング|鏡について
「鏡」は古来より単に自己を映す日用品としての使用にとどまらず、現実の世界と別の世界を分ける神秘的な存在として祭祀の道具に使われてきました。
創作物の世界でも、鏡が非現実世界への入り口として機能している作品を挙げれば枚挙に暇がありません。
映画『シャイニング』においても鏡はキーアイテムであり、この世ならざるものと現実を見分ける役目を果たしているのです。
特に分かりやすいのが、237号室でジャックが女の正体に気付くシーンです。
管理人
突然バスルームから現れた若い女に魅了され、思わず抱きつくジャックでしたが、ふと鏡を見ると、そこには老婆の腐乱死体が映っていました。
ジャックは度々、亡霊や幻影を見ますが、鏡は真実の姿を映し出すのです。
それをジャック自身も理解したのか、トイレでデルバート・グレイディと会話している際には、彼の正体を訝しんで鏡をのぞき込もうとしています。
ただ、絶妙なカメラアングルのため鏡に映るグレイディの姿は見えませんが。
バーテンダーのロイドにしても、それが見えていたのはジャックだけであり、ウェンディーがバーに来たとき、鏡に映っていたのはジャックただ一人でした。
そしてダニーがつぶやく「REDRUM」も、壁に描かれた言葉が鏡に映ることによって真の意味「MURDER(殺人)」が分かるという仕組みです。
劇中、鏡が初めて登場するのはダニーがトニーと会話するシーンでしたが、面白いことに視点が鏡に映るダニーへと徐々にクローズアップしていきます。
これは、ダニーの中にもう一人の人格トニー(正体は未来の自分)が存在することを分かりやすくしている演出です。
管理人
鏡は真実を映すものであり、ダニーはそれによって内なる自分と対峙し、会話することが出来たのです。
しかし、そうなるとジャックがバーカウンターに座り鏡に向かっているにも関わらず、ロイドが見えてしまったということは、もしかしたらロイドはジャックの心が作り出した幻であるのかもしれません。
この点については後述しますが、映画では原作と違い、ジャックが狂ってしまった原因がホテルだけにあるのではなく、うまくいかない人生への焦燥感にあるように解釈できるのです。
もちろん、それはキューブリック監督が意図的に改変した要素なのですが、とにかく映画では、ジャックは初期の段階から精神に異常をきたしているように見え、心霊現象なのかジャックの妄想なのかが曖昧にされています。
例えば、ロイドやグレイディがジャックに対し肯定的で、逆にウェンディーやダニーに否定的なのは、ジャックの中の願望や考えがそのまま投影された、つまり彼の心が作り出した人物だから、とも考えられるのです。
このように鏡に着目して本作を鑑賞すると、また新たな視点に気付くことでしょう。
…REDRUM…REDRUM…REDRUM…REDRUM…。
(シャイニング) pic.twitter.com/X6k5v3pdKs— 洋画台詞&シーンbot (@yougaserifu_bot) November 11, 2019
シャイニング|カーペットの柄模様の意味
オーバールックホテルの廊下には全面に六角形柄のカーペットが貼られており、一度見たら忘れられないインパクトを持っています。
完璧主義者のキューブリック監督のことですから、当然この柄模様も何らかの意図を持って選択したに違いありませんが、本人がそれについて言及することはありませんでした。
その点も含め映画『シャイニング』には多くの謎があり、海外では昔からファンによる様々な考察がおこなわれてきました。
それは『ROOM237』という一本のドキュメンタリー映画にまでなっている程です。
管理人
中には荒唐無稽な説もありますが、本作鑑賞後に観ればより深く『シャイニング』の世界を楽しめるでしょう。
ここではカーペットの柄の意味について、そのような多様な説も踏まえつつまとめたいと思います。
まず、この柄について初めに注意すべきなのは『シャイニング』の撮影で考案されたものではない、ということです。
この柄はイギリスのインテリアデザイナー、デービッド・ヒックスによるデザインで、正確には「ヒックス・ヘキサゴン」というものです。
デービッドはすでに60年代にこの柄をデザインしていました。
従って、ヒックス・ヘキサゴン柄の著作権はデービッド・ヒックス社にあるわけで、キューブリック監督は配色こそオレンジ・ブラウン・レッドに変更したものの、デザインは盗用したわけです。
当時は今と違ってコンプライアンスなどという概念は存在せず、著作権についての世間の認識も相当緩かったのでしょう。
そしてキューブリック監督がそのヒックス・ヘキサゴンに込めた意味としては、6つの点が考えられます。
管理人
1つ目は、鮮やかで魅惑的しかしながらどこか人を不安にさせるこの柄は何か悪いことが起きる予兆を現していることです。
2つ目は、六角形の6はキリスト教において不完全な数字であり、神や聖的な存在に背く悪魔的な数字であることです。
神は世界を7日間で創造したため。ヨハネの黙示録では666を獣=悪魔の数字としています。
また、6は人間の第六感すなわち超能力=ダニーのシャイニングについての隠喩にもなっている。
3つ目は、ヘックスはボードゲームのマス目であり、登場人物は駒であることです。
キューブリック監督は大のチェス好きであり、また戦争・戦略についても深く研究していました。
ウォーゲームに多く使われているヘックス柄が選ばれたのは偶然とは思えません。
そしてヘックスに座って遊ぶダニーは、よく見るとカットが変わるごとに移動しているのです。
これはホテル内の悪霊によってダニー、ひいてはトランス一家がボード上を駒のように動かされていると解釈できます。
4つ目は、この柄はキューブリック監督の多用する「一点透視図法」(奥行を表現する遠近法の一種)と「左右対称」の構図に特に適しており、廊下の奥行を延長させ、遠近感を強調する効果を生み出していることです。
5つ目は、映画『シャイニング』にはインディアン(本来はネイティブ・アメリカンの表記が望ましいですが、便宜上こう表記します)の意匠が多く取り入れられ、この幾何学模様の柄もその1つであることです。
前述の『ROOM237』にも登場するジャーナリストのビル・ブレイクモアによると、キューブリック監督は恐怖をより引き出すため、アメリカ人の潜在意識にあるインディアンへの罪悪感を利用したそうです。
そして、6つ目が、この柄の六角形や配色は原作及びTVドラマ版に登場した「蜂の巣」の模様でもあることです。
蜂は「悪」や「災い」の象徴であり、原作では最後に炎上するホテルから飛び立つ描写があります。
シャイニングのカーペット柄にも意味があった?
この六角形の6がシャイニングの第六感を表わしているそうです。 pic.twitter.com/MUmka1xzKT
— 映画好き男子🎬シネマヒッツ (@cinema_hitsTV) June 28, 2020
*映画『シャイニング』のここまでの解説は当サイト『シネマヒッツTV』の独自コンテンツです。
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